このサイトでは、ラテン語の「ガリア戦記」(DE BELLO GALLICO)を、詳細に解析することを目的としています。 解析するというのは、 何が主語で(多くの場合省略されている)、 どれが主たる動詞なのか判別し、他の節(副詞節、名詞節など)や句などと、どういう関係になっているか調べることです。私のような初心者の場合、ラテン語文の語の並び方は 非常に解りにくく、語順を(私の場合)英語風に並べ替えます。
例で説明します。
例えば次の文。これはガリア戦記の第一巻、第一章の始まりの文の一部です。これは、構造的には殆ど、英語と同じで違和感はありません。一語一語、訳していけば自然に意味は分かります。 大まかには
[ Whole Gallia is divided in three parts] です。あまり、違和感はありません。これは、文が短く語の並びも英語とほぼ同じだからだと考えています。
この文(文章ではなく、一つの文です!)の主語はCiceroです。その動詞は最下段か下から2行目あたりにあるmittit(送った)であり、目的語は quinque cohortes (5つの大隊)です。 つまり「キケロは5大隊を送った」というS+ V+ Oの形式です。 このような文を、頭から読み下して意味が理解できるようになるまでは、構造を調べて解析することで理解するしか方法がないと思われます。
簡潔で明瞭であるという評判の高いカエサルでも、この程度の長さの文はたくさんある ということは、他の人の文章は考えるだに、恐ろしい。それともローマ人はこういう文でも、スラスラと特に問題なく理解していたのでしょうか?
これは実は第六巻の36章の一行目です。こういう形式の文を「掉尾文」というらしく、ラテン人の好んだ様式との事。とにかく末尾に来るまで主な動詞を書かず、宙ぶらりんにすることで緊張を持続させるテクニックである由。
構造は次の通り
Cicero,
qui ~ continuisset,
ac ~ pasus esset,
septimo die, diffidens ~
quod ~ audiebat
neque ~ afferebatur,
simul permotus eorum vocibus qui ~ appellantur
(siquidem ~ liceret)
expectans nullam casum quo ~ posset
mittit quinque cohortes.
Cicero septimo die mittit quinque cohortes frumentatum in proximas segetes. frumentatumはfrumentorの目的分詞「飼料のために」「Ciceroは7日目に、飼料を得ようと、近くの畑に5大隊送った。」これだけが文の骨子である。
qui continuisset milites in castris cum summa diligentia omnes superiores dies praeceptis Caesaris. Ciceroを修飾している文の①「彼はそれまでの期間では、Caesarの命令に従い、野営地内の兵士たちを最高に精勤の状態で保ち」continuissetが接続法で「譲歩の接続法」と呼ばれる。
ac esset passus ne quidem quamque calonem egredi extra munitionem.Ciceroの記述② 「一人たりとも従軍奴隷たちを砦の外に出すことを禁止した」(やはり譲歩の接続法)
この譲歩の接続法はCiceroがそれまで優秀であったの「だけれども」と、後に「でもこんな失策があった」という記述の伏線とも言うべきニュアンスであろう。
septimo die diffidens : septio dieは時の奪格。「7日めに」diffidensは現在分詞で、文法的には主語のCiceroを修飾している、分詞構文。Caesar servaturum (esse) fidem de numero dierum. diffidensの「信頼せず」の中身。「Caesarが日数に関する約束を守ること」quodで疑っていいた理由を2つばかりあげている。
simul permotus eorum vocibus :これもpermotus完了分詞で、分詞構文。「同時に、彼らの声に影響されて」彼らとは次のqui関係代名詞で説明される。
qui appellabant illus patientiam paene obsessionem.「この耐久をほとんど籠城と呼んでいた」述語対格。
siquidem non liceret egredi ex catris. 「と言うのは実に砦の外に行くことが禁じられていたからである。」
expectans nullam casum eiusmodi quo posset offendi. 「また(Ciceroは)何か攻撃される類の事故を想定していなかった。」
novem legionibus oppositis : 独立奪格「9軍団が配置されており」
maximo equitatu dispersis : 独立奪格 「最高の騎兵たちがそのあたりに散らばっており」
hostibus pane deletis : 独立奪格「ほとんど崩壊した敵」
inter quas et castra unus collis omnino intererat.
これが、文の構造を解析する、という意味です。
以下に、有用と思われる情報を付加していきますが、とりあえず、能書きはいいから、という方は次のところからインデックスページへどうぞ。
ラテン語のテキストは [The Latin Library] というサイトからダウンロードしたものをベースにしています。
The Latin Library
このダウンロードしたテキストを、行に区切りながらhtmlの形式に直し、更に順に「長音記号」を手で入力しました。 「長音記号」は、幾つかの「ガリア戦記」解説書を見ながら修正したものです。 主として[Francis Kelsey] という人の解説本と [Tappan Walker]という人の本を参考にしました。以下にURLを示します。
Kelsey本
Walker本
手で入力しているので 一部、ミスがある可能性は大きいとは思います。ぜひ、発見、ご指摘いただけると有り難いです。またこれらの本は解説本ですので、色々な注釈がついており、たいそう有益です。
文法書も、辞書もインターネットで、入手できます。古い本が多いので、著作権などは心配する必要は無いだろうと考えています。本文の中で、構文解析をするときに、その根拠を示す意味で 文法書を参照しています。 例えば [NewLatin 229] [AG429 b]とかです。これはNewLatinの方は [Charles Bennett]という人の [A New Latin Grammar] という本の§229を見よ、と言う意味です。 [AGxxx] の方は[Allen and
Grennoughs]という人たちの同じ題名ですが[A New Latin Grammar]という本です。
Bennettさんの文法書は、幸い日本語訳が、インターネット上に出ています。この日本語訳の bennett本が一番多く参照させて貰いました。もちろん、内容は英語の原版と同じなので、§番号も同じです。 あとはこれも日本語ですが「ゼロからのラテン語」という[大黒学]さんという人の著作で、何かの翻訳では無いと思われます。 BennettとAGの文法書の構成は 大変似ており、その他、Hodgesという人の文法書も同じような構成で、ある意味ラテン語文法書は歴史に長いだけに、
その様式が定まっているのかなとも思っていたのですが、この「ゼロからの~」は、構成が独特です。しかし、構成は異なりますが、非常に系統だった説明で、 特に「数詞」「準動詞」の 説明はこれが一番わかり易かったように思います。(注:残念ながらこのURLはすでに存在しません。どうしても見たいと言う人は私宛メールをください。私の持っているPDFファイルを送れるかもしれません。)
ゼロからのラテン語
新しいラテン語文法(日本語訳)
New Latin Grammar (Charles Bennett)
New Latin Grammar (AG)
辞書については、一番簡単なのは[Wikitionary]でしょう。これはラテン語だけではなく他の言語もでています。また、活用、とか屈折を気にせず、ただ出てきた単語を入れるだけで、 その、「辞書基本形」から 当該の数、性、格、時制など全て教えてくれます。オンラインでしか使えないのが、ちょっと面倒ですが。
Wikitionary
LatinReaderというのはラテン語のテキストを読むためのアプリです。PCで動作するアプリをWebで動作するように変更しました。
便利なのは辞書が組み込みになっているので、単にラテン語の単語の上でクリックすれば対応するラテン語が示されます。辞書の基本形、格、性、数、時制、態など、屈折についても表示されることです。
多くの場合、複数個表示されます。其の中から適切なものを選ぶことが第一歩です。
このLatinReaderではガリア戦記以外にもいくつかのテキストを上げてあります。Cicero、Tacitus 、Plinius、更には初心者用のラテン語テキストで、Fablae Facilesというのを掲載しました。これはFrancis Ritchieという人が
描き下ろしたギリシャ神話で、それをラテン語で書いています。極めて易しい文でほとんど単語を訳すだけで意味はわかるほどです。
ところどころで多少、唐突に「所有の与格」とか「主語付きの不定詞句」なども挿入されており、非常に教育的だと思います。
LatinReaderではまずそのIndex Pageで「本を開く」ことから始めます。本は「自分の書架」または「一般書架」から開きます。上記のいくつかの本が左の欄に表示されるので、どれかを選択すると対応するIndexが表示されます。それはほとんど
ガリア戦記のインデックスページと同じようです。所定の章をクリックすると対応ページが開きます。一般書架から開いた場合、この段階ではすべてのページはまっさらな状態で、単語の訳も、ノートも訳文もありません。
自分でLatin 文を読みながら、辞書を使って訳して行くわけです。最後には行った編集結果を保存するわけですが、「自分の書架」から開いた場合はそこに再度保管できます。
しかし「一般書架」から開いた場合は、戻すところがありませんから、ダウンロードすることになります。ダウンロードしたファイルは、「ファイルをアップロードして編集」で再度編集できます。
説明に間違いがある可能性もありますし、テキストの長音記号の過ち、不一致などもあると思います。ご指摘頂けると幸いです。また異なる解釈など、歓迎です。
gallicwar3340@gmail.com までメールをお送りください。